タイ北部メーホンソンのヴィパッサナー瞑想センターワット・タム・ウア寺院

昼休み、タバコを吸いに行くと売店が開いていたので、ビスケットを二種類買ってインターネットをしてみた。が、前回繋げてから4日しか経ってないのでメッセージは無い。そして、皆に自分の存在を忘れられていくのだ。SNSは忘れられないようにする自分の宣伝ツールなのだ。

昨日会った香川の日本人が「ここ、何時に閉まるんですか?」と話しかけてきた。私は店の人に英語で聞いて6時だと伝え、それ以上話すことはなかった。

私はコミュニケーションに依存していた。常に新たな場所で私から誰かに話しかけて満足していた。それを止めると依存に気付いた。

彼には悪いが、彼がネガテイブなら自分の態度に反省するだろうし、ポジティブなら、門の中では真面目に沈黙しているのだと考えるだろう。

大きな池のほとりの日陰のベンチで本を読んでいると、タイ人女性2人が話しかけてきた。1人はアメリカに住んでいて、初めてこの瞑想センターに来ているらしい。欧米人の多さと態度にビックリしていた。

そして、離れたところで1人の欧米人女子がベンチで横になった。それを見たタイ人の彼女らは「ここは寺なのになんで横になるんだ!」と怒った。ここで日本人の出番だ、侵略された東南アジアの国々を救うべく立ち上がった旧日本軍のように。そして横になっている彼女に近づき、「ハロー!あなたは英語が理解できてる?朝、坊さんが言ってたのを聞いた?庭では横にならないでって。ここは寄付で賄ってるから、地元のタイ人が見て寄付を止めたらここは無くなるよ。大丈夫?病気なの?どこから来たの?」と聞くと、サイレントの名札を見せて喋れないと言う。サイレントの意味がわかっていないのだ。沈黙は瞑想に集中するためであって、面倒な会話を逃れるためではない。注意されたことに対して、喋れないとは本末転倒だ。とくと長々と説教してやりたかったが、時間が来たので戻ることにした。タイ人の女子からは好評だった。

しかし、これも自分の満足感を満たすものであり、仏教的には良くないのだろうか。

なんとなく池のほとりに座っていた中国人の青年に話しかけてみた。やはり国が近いと面白いのだ。彼は今流行しているコロナウィルスが怖くて国へ帰れないと言う。もっと旅行したいための自分への言い訳ではないか?と思ったが良しとして、「中国人は危険だ」と言うので吹いてしまった。「うちの家族は危険だ」と言っているようなものだ。もしくは自分が中国人と思っていないのか、どちらにしても面白い。とりあえず訳を聞こうとした。すると「中国人はお互いのコミュニケーションが無い」と言う。なるほど、家族もコミュニケーションは大事だ。家庭内暴力に発展する恐れがある。そして人民政府が悪いと言っていた。私は年寄りの中国人はあまり好きでは無いが、若い中国人は好きだ。彼は都会的で英語もある程度話せるのだ。

そして彼の紹介で、チョイさんと言う39歳のかなりひょうきんな韓国女子と通り過ぎざまに知り合った。「コロナウィルス心配よね、中国人は100万人死んだって?」私は吹いた。「ひゃ、ひゃくまんにん??」彼は真面目に「いや、政府が隠しているだろうけど、1万人くらいじゃないかな」「韓国でも10人死んだってニュースで見たわ、日本人は何人?」「え?日本人も死んだの?」「たしか9人だったかな」「よっしゃ!韓国の勝ち!」またまた吹いた。

その後の瞑想でその事が頭を周り集中できなくなった。

瞑想が終わって、ちょうどバッタリ彼女と靴置き場で会った。いや、同じタイミングになるように歩幅を調整されたのか?

長いことその場で話して盛り上がった。この雰囲気は良いかも。という実感があったが、それが彼女の口説き方だったのか。とりあえず座って話そうということになり、私は持っていたクラッカーを開けてお茶を飲みながら久しぶりの女子との会話を周りの目も気にせず楽しんだ。彼女も声が大きくなり、興奮していたようだが、地声が大きいのだろう。

消灯の9時が近づく頃、日本人風のおじさんが前を通ったので、「今晩は」というと、やはり日本人だった。しかもどこかであった気がする。そう、前回この場所で会ったのだ。間違いない。大阪出身で一緒にタバコを吸いに行って蛇に噛まれた人ではないか。しかしうる覚えでハッキリしないが、確かに彼の目を覚えている。

消灯とは良いタイミングだ。このままだと朝まで話してしまいそうな勢いだったので、モヤモヤしながら寝るのが更に二人の仲を盛り上げてしまうのだろう。

このままでは、前回の二の舞になる。既に友達ができてしまい、日本人のおじさんは知り合いかもしれないという運命か必然か。

とにかく寝ることにしよう。沈黙を貫くつもりが、三日目で会話を欲する自分の体に甘えさせてしまった。明日の朝食ではサイレント席に座らないようにしよう。私を見つけてチョイさんが前に座るだろうことは90パーセント明らかだ。そして、関西のおじさんも参加してきそうだが、外国人に気を使うことなく日本語で話す人は嫌いなのだ。しかし彼は気を使って参加してこないだろう。

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