ワンダーラストホステルには、毎年景洪で旧正月を過ごしているらしき国内旅行者が集まってきた。
まずは、ホンダのCB250と、モトクロスに乗って新疆ウイグル自治区ウルムチからやってきた男性2人。医者と先生だと言っていた。長旅ご苦労様です!
とても好印象の40代の二人で、バイクの後部にはアルミの箱が付いていて、オイルタンクまで備え付けてある。
彼らは宿に到着するなり、テキパキと晩餐の準備を始めた。まず、生きたままの鶏を買ってきて私の横に置いた。この雄鶏が料理のメインになるようだ。
更にゲストは集まってきた。何も知らずに訪れたフランス人の若い男性や、蔵族(チベタン)の二家族など、10人以上もの人たちがこの宿に集まってきた。
景洪は中国の中では南端の街であり、観光地であるこの景洪で旧正月を毎年過ごすのを楽しみにいしている人たちで、中国人としては比較的穏やかな気性の良い人たちだった。彼らは外国人と交流することが好きなのか、宿代が安いからなのか、とにかく偶然にしろ必然にしろ、同じ目的地に集まった同じ思考と波動を持った仲間であり、仲良くなることにさほど時間はかからなかった。
が、約一名の田舎者の漢人の若者は違ったようだ。彼は英語がほとんど喋れず、話しかけてみて私が日本人だとわかると堰を切ったように必死に話仕掛けてきて、「日本の金をくれ」「日本の金が欲しい。交換してくれ」と何度も何度も言ってきた。私は日本円の持ち合わせがないことなど彼は知る由もなく、金は銀行に預けていて必要な時に現地の通過で引き落とすことなど、説明するのも面倒だし、彼には理解ができないだろう。
あまりにしつこいので私はいくらか持っていた日本円の小銭を彼に見せてやると、「違う!札が欲しい!」と言う・・・「日本はコインが多くて札は100元からしかない」と言っても信用しない。
それもそのはず、中国では1角(1.5円ほど)から札があるのだ。確かに、他の国に比べて日本は殆どが硬貨で札があまりなくなった。そして、中国まで来る時に小銭入れを使うことがあまりなかった。
彼は日本の関連会社に勤めているらしく、日本製品の大ファンだということだったが、空気を読めないタイプらしく女性に持てなさそうなしつこさを持った典型的な田舎の無知な中国人の性格だった。
中国人で一人旅をしている者は少なく、中国人のバックパッカーもまだ少ないのだ。世界中を旅している中華系のバックパッカーは裕福な、台湾人、香港人、シンガポール人が多い。
そして、鶏の解体が始まった。まず、鶏の頭を持って一気に体を回転させ一瞬でシメる。包丁で首の部分を少し切り、逆さにして血抜きをする。そして体を熱湯をかけて毛をむしり取る。熱湯をかけると簡単に羽根が取れるようだ。
あとは手馴れたもので、一瞬でぶつ切りの肉塊と化してキッチンに材料として並んでしまった。彼らにとって鶏を締めるのは魚を締めるのと変わりはしない。
中国では、やはり男が料理の主導権を握るのだった。次々に出来上がる中国料理たち。そして子供達は遊んでいる。
チベタンの子供達は11歳ほどの女の子と、8歳ほどの男の子の兄弟がいて、私に警戒心なく懐いてきた。女の子は特に可愛くて、膝に乗ったり触ってきたりと、最近の日本の子供には見られない懐き方をするところがとても可愛かった。
男の子も可愛くて一緒にトランプをしたり、花火をしたり、スケボーをしたり、私が幼い頃の正月を思い出したのだった。
日も沈み、次第に皆酒が回ってきて良い感じに酔って来たようだった。アルゼンチン人のダニエルは酔っ払って、宿のマネージャーである黒髪のボブの娘とジルバを踊りだす始末。
私は宿のパソコンでDJをしてヒップホップなどを流すと、フランス人の男性とカナダ人のエイビリーンが大喜びし、チベタンのお父さんたちも「聞いたことない音楽だけど、何かノリが良いぞ」てな感じで踊っていた。
中国では情報が制限されているので、都市部以外の地方では音楽についてかなり時代が遅れているのだ。
子供達もフロアで踊っていて楽しんでいた。そして皆で宿の前の道路で花火大会が始まった。
街中では至る所で爆竹の音が「パパパパパパ!!」と機関銃のように鳴り響き、遠くでは打ち上げ花火がまるで爆撃のように「ドドドドドドドン!」と鳴り響き、まさに中国旧正月戦争勃発と言った様子だった。
そして、道路を渡って綺麗に整備された階段を降りて、乾季のために広くなった河原に降りてみた。気温は丁度良く、川向かいの建ち並ぶビルの向こうで打ち上げ花火の音が炸裂している。
とうとうダニエルは酔いつぶれて河原の草むらでぶっ倒れてしまった。宿のボランティアで滞在しているカナダ人のエイビリーンは、栗色のカーリーヘアで瞳が薄いグリーンをした、少し影がある(ずっと体調がすぐれなかったのだろう)20代の娘で、なんとなく彼女に惹かれていた。
中国の烟花爆竹店
爆竹といえば中国、日本の打ち上げ花火は美しくて職人が丹精込めて作った世界的にも評価が高いものだが、中国の爆竹はとにかく音が激しくて長く連発した方がめでたいという感じ。
宿の近くに大きな花火店を発見。入ってみると中は殺風景なのだが、旧正月用の連発花火や打ち上げ花火が置かれていた。とにかく一つ一つがでかくて、値段も高い。直径80cmぐらいある一番大きな丸い箱に入った爆竹(?)が6,000円ほど。788と書いてあるので788連発なのだろうか・・・
それを嬉しそうに惜しげも無く買って車に積む親子。結構売れているようだ。縁起物だし、一年に一回だし、高くて長くて派手なのが福を呼ぶのだろう。
私は子供用の蜂の形をした安いのを買ってみた。宿の前でやってみたが、火がつかなかったり、火がついても飛ばなかったり、本当は回転しながら上昇してパンっと破裂するのだろう。
そして、爆竹は音を響かせるためか、飛び散る危険をなくすためなのか、左右が壁の細い路地の中でやるようだ。爆竹が終わった後の赤い紙が飛び散った跡が色んな路地で見受けられる。
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